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チェーホフの話を続けます。
ぼくのはじめてのチェーホフ体験は『犬を連れた奥さん』です。16歳の年でした。岩波文庫本で読みました。この文庫本を手にした動機は、この本を先輩の女性が読んでいて、ふと涙を流している場面に遭遇してしまったからでした。ぼくは、この先輩女性に好ましい印象を抱いていました。微笑の美しい人でした。 文庫本のタイトルがふと目にとまり、そんなに哀しい小説なのかと思って、さっそく本屋に行って読みましたが、これを読んで何故に先輩女性が泣けるのか、そのときは理解できませんでした。多分、この少女の周辺で、思い患うことが何かあったのでしょうね。そういうとき、チェーホフを読むと涙腺がつい弛むことを、後年、ぼくも体験しています。 『犬を連れた奥さん』は、映画にもなっています。映画のタイトルは『黒い瞳』でした。監督は、ニキータ・ミハルコフ。主演はエレナ・ソフォーノワとマルチェロ・マストロヤンニで、ロシア人の人妻に恋をしたイタリア男の物語という話になっていて、音楽的な映像を美しいと思いましたが、マストロヤンニの映画という印象が残っています。 マストロヤンニといえば、ソフィア・ローレンと共演した『ひまわり』が印象に濃く、どっちつかずの男を演じると、この役者の右に出るものはいない(日本には成瀬巳喜男に使われた森雅之がいましたが)といわれますが、ぼくにはこの役者のバターのニオイがいつも気になり、むせかえってしまいます。 この映画の印象も、マストロヤンニの顔ばかりが思い出されて、チェーホフの映画としてはルイ・マルの遺作『42丁目のワーニャ』(『ALWAY三丁目の夕日』は、このタイトルのパクリかな?)の方がいいと思います。 いずれにしても、好まれるチェーホフは哀しみであり、ロマンスであって、井上ひさしがボードビルとしてのチェーホフを描こうとしながら、結局、タイトルを『ロマンス』としたところに、チェーホフその人が望まないチェーホフがあるようです。
by sosakujo
| 2007-09-07 07:56
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